CASE.1
東京都 匿名希望のグレープ
"Lc475が見せてくれた夢"


"Lc475が見せてくれた夢"

Lc475がわが家に来たのは丁度10年前のクリスマス。
宣伝部デザイン課に異動となったグレープは30過ぎにしてパソコンを操作できるようにならなければなりませんでした。
Windowsはまだ3.1の時代、256色しか画面表示できないマシンでは喧嘩にならないので、あてがわれたマシンは当然Machintosh。
当時のグレープは職工上がりのパソコン大嫌い人間。

"パソコンいじるくらいなら旋盤曳く!"
っていうくらいのデジタルアレルギー。元上司であったわからんちん部長がデジタルモノを盲信する、『デジタル信者』の老人であったところからもそのアレルギーたるや、酷いモンでした。
ところが、そんなグレープがMachintoshの虜になるには時間がかかりませんでした。
なんとなれば、『Mac』は物作りのための機械であることが直感的に分かったからです。
『旋盤』や『フライス盤』と同じ匂いを感じ取りました。当時のDOS/VやPC-98はあてがわれたゲームや、書類の内容を埋めていく道具。
Macは色々な物を創作したり、書類そのものをフォーマットから作れる。
この差はでかいと思いました。

『これは自宅にもMacを導入して、より深くMacへの理解を深めねば!』
今考えておけば、Macと深く関わるなんてやめときゃよかったんです。そうすればグレープは全く違う人生を歩んでいたでしょう。
時にAppleは社運をかけてMacをパーソナルユースマシンにするべく、Performaシリーズを日本で発売開始した時代です。当然狙いはPerforma520。これを買っておけば、モニタもCD-ROMもいろんなソフトもついている。もうこれっきゃない!.............でも、これ買えなかったんです。めちゃ品薄で。

代わりに買ったLC475は、何もかも別売りのマシンでした。何せ本体の蓋をぱかんと開けると、ロジックボードとFDDとHDDしかない。モニタもCDも全て別売り。おまけに13インチモニタに32000色だそうと思ったら、2枚のV-RAMを512Kの物に交換しなければなりませんでした。おまけにオンボードメモリは4MB。今では考えられませんが追加した8MBのメモリは3万円ほどしたと思います。13インチモニタ3万円、CD-ROM3万円、
ターミネーター5000円(当時、何に使う物か判らなかった)
総計30万近く払ったんじゃないでしょうか。入門機でこれです。当時はプロユースで揃えようと思ったら100万はくだらない時代でしたから.......。
パソコンは高価な買い物だと思っていましたが、まさかここまで高いとは........。
配達予定日は、奇しくも1993年12月25日。自分から家族への高価なクリスマスプレゼントとなりました。
家に来た翌日、訳の分からないエラー。今思えば些細なエラーだったのかもしれませんが、ド素人のグレープに詳しい理由が判るわけがありません。
ええ、しましたともさ、フォーマット。初心者がいきなりOS書き換えです。
しかもCD-ROMドライブの使い方がよく分からないので40枚近いフロッピーを抜いたり挿したりの繰り返し。おまけに"フォント15"のフロッピーが壊れており認識してくれない。インストールは頓挫です。
幸い会社のMacでは読み込んでくれたので、別のフロッピーにコピーすることで事なきをえました。
さあそれからが大変です。当時はソフトにコピーに対する倫理観が低かったので、もうソフトを貰いまくりました。"potoshop"は2.0から、"イラストレータ"は3.0から。子供のためのキッドピックスや、"おばあちゃんとbぼくと"はさすがに買いましたが『本体にあれだけ金かけたんだからソフトなんかに使えるか』と言うのが当時の本音でした。(実はCD-ROMのタイトルがフロッピーにコピーできるわけがないと知ったから仕方なく買ったのでした)ファイルやアプリをコピーして持ち帰るためにコンパクトプロの使い方を必死にマスターしました。

今考えると愚かな事です。
やがて、イリーガルなデータで160MBのHDDは満杯になり、残り容量が10MBを切ったと

き『あかん、外付けHDDを買おう』と言うことになりました。白羽の矢が立ったのはサイクエストの外付けリムーバブルHDD。
まぁ今で言うMOみたいなモンですが、違う点は"容量が270MBも(!?)ある上、カートリッジの中身はマジでHDDなのでMOより読み書きが早い"ということでした。
カートリッジの値段も1枚6000円ほどとお手頃価格(!)。
池袋のショップでメーカー倒産品が3万円台だったので飛びついて買ってしまいました。
今考えてみれば、メーカー倒産品なんて危ないモンやめときゃよかったんです。
それから半年後、Lc475は私と息子のおもちゃとして、女房のパートの商売道具として働いていましたが。なんせ、本体の内蔵HDDよりも大きい外付けHDD。しかも容量が足りなくなれば安価に買い足せるとあって、怖いモノなしの気分でした。

ところが、ある日、いきなり内蔵HDDから『ひゅ〜、かたん。ひゅ〜、かたん』と音が鳴るようになってマウント不可能となってしまいました。
当時はシステムフォルダをサイクエストにバックアップするなんて知恵はありませんでしたからもう泣くしかありませんでした。女房の一週間分の仕事がぱぁ。
慌てた女房は、秋葉原に走り、買ってきたのはPowerBook150。パソコン通信とテキスト打ち仕事がメインだった彼女の仕事にはこれで充分でしたが、特許関係の用語で育てた辞書が雲散霧消してしまったのは大ダメージでした。

『Macが壊れちゃったょ〜』
親子3人川の字に寝ながら涙を流しました。
3日後、Macに詳しいという古い友人と連絡が取れ
『そのHDDもう駄目だから新しいの買いな。秋葉館でクァンタムの1GBが3万円台だから』と言う啓示とともに4GBの外付けHDDを持って助けに来てくれました。
彼に頼んで、壊れた、純正160MBとクァンタムファイヤーボール1GBを交換。4GB(なんとでかいHDDなんだ!とその時は思いました)のHDDを繋いでもらい基本システムをインストールして見事Macは復旧してくれました。
『○西くんありがとう。今度から僕ぁ君のことを師匠ーと呼ぶことにするよ。』

今考えておけば、やめときゃよかったんです。
あんな悪魔を師匠と仰ぐのは。
『グレープ、メモリ足りないから買っておいた方がいいよ』
『え、でもメモリ高価いじゃん』
『32MBで10万切ったから..........』
『(^^;....................。』
師匠の意見には逆らえません、確かにメモリ不足は感じていましたし、コプロセッサも欲しかった。
プリンタもカラーのが欲しかったし、スキャナも、ビデオキャプチャーボードも欲しかった。物欲が頂点に達したとき、インタウェアが『Picpom Lc』というLcPDS用のビデオキャプチャーボードを発売しました。

5月の連休に旅行に行くか、PICPON買うか。もちろんPICPON.
今年の年賀状は475で作るから、カラープリンタ買うぞ!
メモリがもう気が狂いそうなほどにたりねぇ!32MBど〜んと行こう!
あ〜、もう書類が片づかない、スキャナ買ってOCRだ!

ライク ア ローリングストーン。転がる石のごとしという言葉が一番にあったのがこの頃だと思います。

かように周辺機器が増え続けたのかと言えばさにあらず。来る物あれば去る者もあります。サイクエストが1.5GBのデータとともに息を引き取りました。壊れたヘッドであれこれメディアを試したせいで、全てのメディアに傷がつき、ご臨終です。
メーカー倒産処分品だったため購入後半年だったのにもかかわらず、保証は受けられず、そのままぱぁ。再び親子3人川の字になって泣いたのはいうまでもありません。

『ああ、あそこで3000円ケチらなければ.....。』
メーカー倒産品はもうイヤじゃ。代替え機には当時台頭していたIOMEGAのZIPを購入しました。メディアは100MBだけど、安いし速いからいいや。
今考えておけば、ここでやめときゃ平和だったんです。

当時、職場のデータバックアップ環境はPD。
何故自分は業界標準であるMOを使おうとしないのか。自分で自分を小一時間問いつめておけばよかったんです。ヒューレットパッカードがのカラープリンターの紙送りができなくなりました。修理には相当のお金がかかります。時は『カラープリンター写真画質戦争黎明期』。即断EPSON PM700-Cの購入となりました。

『これがプリンタで出力した画像か!ありえねぇ!』
昔のインクジェットプリンタって、本当に汚かったんです。しかもHPの交換インクは、カートリッジに印刷ヘッドがついている仕様だったので、カートリッジの高価だったこと........。
しかもインクの賞味期間も短く、ちょっと古くなったらインクが腐って変色していました。
カートリッジとヘッドが別々のタイプのPM700-Cはインク代がHPの1/3だったのに偉く感動したモノです。
..........そのヘッドも購入後3ヶ月後の暑中見舞いシーズンにぶっこわれてくれましたが!。幸い、この時保証は効いてくれたので修理代こそかかりませんでしたが、暑中見舞いのために買ったプリンタが用をなさなかったのは精神的に大ダメージでした。

今思うと
『機械は増えれば増えるだけ、故障する確率が増え、心に傷を残し、傷を癒すために機械を増やす』の繰り返しでした。機械の故障は必然であり、それによって心を痛め、また、自力で何とかしようとあがくうちに心身ともに消耗し、経済的にも追い込まれて行くモノなのです。
しかし、当時のグレープはそんなことに気が回るわけもなくHDDは1GB、メモリはMAXの36MBであるところの、最強のLc475に酔いしれていたのです。
しかし時代はいつしか移ってPower Pc全盛期。68LC040のCPUではいよいよ辛くなってきました。
今考えてみれば、こんどこそここでもうやめときゃよかったんです。
『PowerMac買うど!』
しかし、Lc475にあれほどお金をかけてしまった後となってはそんな予算はありません。

『周辺機器や、拡張パーツがそのまま使えるヤツをかえばいいんだな』
条件は32MBのsimmが使えて、Picponの為にLC-PDSを備えたMac。
世間にはPowerMac7000シリーズが出回っていましたが、これらはメモリが使えません。
既に旧機種となった601マシンはNU-BUSのためPICPONが使えません。
そんな中で見つけたのがPowerMac6200/75。中古価格12万!
メモリスロットはSIMM。LCPDSスロット標準装備。これだ、これっきゃない。なになに、同等品のPerforma6210にはデフォルトでビデオキャプチャーとTVチューナーがついてる?
いらない!PICPONあるもん。
そうなんです、今考えておけば、やめときゃよかったんです。
何故純正品にしておかなかったのか!.................................................................................................................................................................PowerPc603eはPowerPcネイティブのソフトは動く物の快適とはいいがたく......肝心のPICPONは6200に挿した途端、一瞬の"焦げ臭い"香りを残し逝ってしまいました。
後にはPowerMacとは名ばかりの6200/75が残るばかり。やがて、Lc PDSの規格は姿を消し、SIMMの値段は下落しまくり32MBが3000円ほどになりました。スロットをLC-PDSからPCIに変更したPowerMac6300シリーズの存在に気が付いたのはそれからしばらくしてからのことでしたが、もう後の祭りです。
そのPCIスロットを持つマザーボード(アルケミー)に対応したG3カードが出るという噂ももはや彼岸の物語。自分には関係ありません。

今度こそこれで終わり........にしておけば良かったんです。
件の師匠がいいました。
『300MHzのガゼルかっちまったよ。アルケミーの160MHzいらねえか?』
丁度そんな頃ぶんか社から
『ドーピングMAC』なる本が出版されました。
気がつけば周囲にリース落ちのMacパーツがジャンクでがさがさと売られていました。
Mac雑誌には旧機種を改造して現行機種に負けないよう手を入れる特集が毎回巻頭を飾っています。『6200/75』でも手を入れれば何とかなるのかもしれない!
そう、グレープは再び甘い夢を見てしまったのです。砂糖衣の下には暴君ハバネロが隠れているとも知らず.......。



Macに関わるようになって10年。Mac OSX10.3の漆黒のパッケージを前にこの頃のことを回顧せずにはおれません。
買っても買っても、追いつけない快適な環境。しかし、新しいソフトを、周辺機器を買ったときの一瞬の充実感。アレは一体何なんでしょう?。10年。爪に灯をともすような想いで、グレープ家は、何一つ贅沢をしないつましい生活を送ってきました。けれども、30代から40代にかけての働き盛りの貯金額は、微動だにせず貯金という物から縁遠くなってしまいました。

あれほど、宝物のように思っていたLc475は、今、全てのドライブを抜かれて使命を終えたダグラムのように部屋の隅にたたずんでいます。

 

あなた、それでもMac買いますか?。

 


※ちなみに本コンテンツのタイトルロゴは
匿名希望のグレープさんのデザインです。


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